TACOMA FUJI RECORDS

delayman / imperator designed by Ryohei kazumi

6,380円(税580円)

STANDARD SHIRTS
COTTON 100% MADE IN JAPAN

SIZE
S : 身幅 48cm 着丈64cm 袖丈19cm
M : 身幅 52cm 着丈67cm 袖丈20cm
L : 身幅 56cm 着丈70cm 袖丈21cm
XL : 身幅 60cm 着丈73cm 袖丈22cm

delaymanを知る読者はどの程度いるだろうか。
ラッパーとして2枚のアルバムを出している彼が、先日発売した3rdアルバム『imperator』は、それまでのhiphop路線から大きく舵を切り、インストゥルメンタルの実験的サウンドに移行した意欲作である。エッジの効いたリリックを排し、牧歌的ともいえるたゆたうサウンドトラックとなっている。その内容については後ほど紹介するが、これほどの大転換はどのような心境の変化によってもたらされたのか。
興味を持った私は、彼にインタビューを申し込んだところ、なんと快諾してもらうことができた。このインタビューによって明らかとなったdelaymanの音楽性について今回は取り上げたい。

delaymanは2011年から活動しているラッパー、エレクトロニック・ミュージシャンである。 本名はフランキー・ヨンダー(Frankie Yonder)。
1stアルバム「mercenary」、2ndアルバム「fortress」でラッパーとしてその手腕を発揮していた彼は、ミレニアル世代である自身が体験した貧しい生活とヴィデオゲームの中でだけヒーローでいられる現実との乖離に焦点をあてたリリックが評価されてきた。そこからの大転換となった3rdアルバムに不安はなかったのだろうか。
Delaymanはこう言う。

「まず、最初に告白しておくが、delaymanは亡き弟ジョー(Joe Yonder)がネット上で使っていたハンドルネームから来ている。 アイツは幼少の頃から身体が弱くて、いつもベッドにいた。病弱な弟っていうのは守るべき対象でもあり、疎ましく思うことも時にはあった。距離感が上手く掴めなくてさ。それで、あいつにパソコンをプレゼントしたことがあった。すぐに使いこなして驚いたものさ。
ネットゲームにハマって、二人でよく朝まで遊んでいたよ。アイツはゲーマーの才能があって、ディスプレイの中ではヒーローだった。その姿を見た時は心底嬉しかったし、すげえ奴だと思ったよ。
あいつがいなくなったあと、パソコンに残ってたのは収集した画像やlogic pro[1]で作った自作の音楽、ゲームプレイを録画してたデータが数テラバイト分、一人の人間がディスプレイ上で生きていた足跡がハードディスクに詰まっていたんだ。アイツにとっては恥部みたいなものだろうが、俺はどうしても、あいつとまだ遊んでいたかったし、困らせてやりたかったんだ。それでdelaymanを名乗ることにしたんだ」


delaymanの世界観はすべて弟が使っていたラップトップパソコンに集約されているのだと言う。音作りやリリックの全ては、ここからサンプリングされて構成されている。delaymanにとって弟のパソコンはクリエイティブの源であり、経典のようなものだ。 この事実は今まで公表されることはなく、今回のインタビューで初めて明かされた。 私自身もこの告白には大変驚くと共に、一つの疑問が浮上した。なぜ、この告白をしたのだろうか。 大転換となった3rdアルバム発売のこのタイミング、それは決意表明のようでもある。

「今回の『imperator』は世界観をもう少し押し広げようと想ったんだ。そこで俺は弟のdelaymanに成りすまして、当時のゲーム仲間たちに声をかけたんだ。弟が死んだことは伏せていたから、久しぶりに連絡と取った形にしてな。
MMORPG[2]なんかで出来た友達ってのは時間がたっても、変な絆があって返事をくれるんだ。戦友みたいなもんさ。それで、奴らにとりあえず何か録音したデータをくれと依頼したんだ。『imperator』はそうやって集まった音楽データをサンプリングして作っている。 皆、音楽に関しては素人だったから録音も雑だし、家族との会話や、通勤の環境音なんかが録音されてたりした。中には、自作の曲にアートワーク[3]までつけて送ってくれたやつもいたよ。面白かったのは、弟の友達が世界中にいたってことだ。人種や国籍、年齢もみんなバラバラだった。その雑多な感じがよくてな。ラップする必要がなくなったんだ」


delaymanを名乗ったフランキーは独り、亡き弟と戯れてきた。
しかし、3rdアルバムでは古い仲間たちと再会を果たし、彼らを引き連れてくることに成功したことで、これまでとは違うトラックメイカーとしての才能を開花させた。
1曲目のsuper tube feat, cokmachine & Morningstar of darknessは潮騒から始まりを告げる。ゆったりとした始まりに今までのdelaymanとは全く違うことが明らかになる。5曲目のArabian table feat, ShimiShimi intensifiesでは書き入れ時の食堂だろうか、大胆にサンプリングした生活音の背後で自動車のウィンカーのカッツカッツ、というループがビートとして鳴っている。113人に及ぶ仲間から集めた多種多様な録音データによって、アルバム全体を通してDIY精神に溢れ、牧歌的でありながら、音を作り出すことの根元、その楽しさを見つけた瞬間に立ち合っている様だ。
今回のインタビューでdelaymanがしてくれた告白は『imperator』に参加してくれた戦友たちへのネタバラシでもあるのだろう。弟のジョーはこの世を去ったが、その足跡や関係性は形を変えて未だ息づいている。delaymanというプロジェクトは亡き弟を偲び、フランキー自身の喪失感を癒すものから、大きく逸脱しようとしている。創造行為とは観測されることで始めて完成するということを思わずにはいられない。
text by Takaaki Akaishi

[1] MIDIシーケンサ及びデジタルオーディオワークステーションの機能を持つ音楽制作ソフト
[2] 大規模多人数同時参加型オンラインRPG
[3] 『imperator』のアートワークは自作の曲と共に送ってきたember samaの作品を使用している。曲の出来は酷かったとのこと



Ryohei Kazumi 数見 亮平

1984年東京生まれ。アーティスト。
絵画や版画など様々なメディアによる作品や、zine、オリジナルグッズなども制作。架空のミュージアムショップことENTERTAINMENTを主催。

Takaaki Akaishi 赤石 隆明

1985年静岡生まれ。アーティスト。
写真を媒材に立体や展示空間へと展開させ、作品を次々とアップデートしていくなど写真というメディアに対して挑戦的に取り組む。 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD (2012) グランプリや「あいちトリエナーレ2016」などに参加。